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Wounded Mass - ss:05

手さぐりの接触

 灰色の天井はレイの心をしめあげた。
 レイは突然わき上がった狂おしいまでの衝動を息を詰めて飲み込んだ。なぜこんなに不
安になるのだろうとレイは思った。不安になる理由などないはずなのに。今はとなりに碇
シンジがいるというのに。
 「どんな感じだったのかしら」
 レイはシンジに視線を向けた。
 シンジは組んだ両手を頭の後ろにあて、天井を見あげていた。その表情は能面のようで、
今し方レイが自分でも驚くほど取り乱したことには全く気づいていないようだった。
 「そうだなあ」そして、横目で、レイを見た。
 シンジの裸の腕と肩、胸が目に痛かった。胸から下は白いシーツでくるまれ、シーツは
レイの胸まで伸びてふたりをひとつにしていた。今はシンジの右足がレイの左足と軽くふ
れあっているだけで、レイはこのけだるい雰囲気をここちよく感じていた。
 「才能があって」シンジは慎重に言葉を選んでつづけた。「才能でむりやり押さえつけて
乗りこなしているって感じかな」
 「分かる」レイはうなずいた。
 「でも…才能…あこがれるな。エヴァに乗せてもらってる、て感じだから、ぼくなんか」
 レイはシーツの下で左手をそっと伸ばし、シンジの手の甲を探り当てて上から軽くつか
んだ。「エヴァの正しい乗り方なんてないわ」
 シンジの右手がシーツの下で半回転し、レイの左手を握った。「綾波はそう思うの」
 レイはうなずいた。「それが碇君の乗り方だと思うから」
 「ありがとう、綾波」シンジは微笑した。「なんだか元気が出てきたよ…実はあれからずっ
と自信が持てなくなっていたんだ」
 「碇君はいつも他人のことを気にしすぎるわ」
 「そうかな」
 「やさしいから」
 「違うよ」
 レイはシンジの唇に自分の右手の人差し指を当てた。「ちがわない」
 シンジはその指に口づけした。「ありがとう」
 レイは天井を見あげた。視野の隅に水色がはいった。今までなかった色だ。
 さきほどシンジと二人で買ってきたカーテン。まぶしいほどの白のレース越しに薄い水
色が暑い陽光をさえぎっていた。
 カーテンを買おうと提案したのはシンジだった。
 どうして必要なのかわからないとレイは言った。日光は調光ガラスでさえぎることがで
きるし、窓の外に建物はないからプライバシーの侵害もない。
 シンジはその理由を心のうるおいだと説明した。
 その説明は腑に落ちなかったが、シンジと一緒に出かけることはうれしかったのでレイ
は同意した。そして、ふたりで隣の駅の商店街に出かけ、安いカーテンとカーテンレール
を買ってきたのだった。レールを取り付け、カーテンを吊っていく作業を手伝いながら、
レイはシンジが何でも知っていて何でもひとりでできることに驚いていた。それはむしろ
レイが何も知らず何もやったことがないだけなのだったが、レイはそのことに気付いてい
なかった。
 カーテンの下がった部屋はそれまでとちがっているようには思えなかった。「これが心の
うるおいなの、私わからない」調光ガラスの濃度を調整しながらレイは言った。
 シンジは微笑した。「そのうち、わかるんじゃないかな」
 「そ」
 そしてふたりはカーテンのある部屋で愛を交わしたのだった。
 その後の話題はエヴァンゲリオン弐号機のパイロットについてだった。
 レイはシンジの表情が変ったことに気付いた。「どうしたの、急に真剣な顔になったわ」
 「ひとつ、気になることがあって」
 「なあに」
 「二人で、エントリープラグの中で二号機を操縦していたときのことなんだけど」
 「碇君、セカンドの後ろに座っていっしょに操縦桿を操作したって言ったわね」
 シンジはうなずいた。「その時」
 「とっても気持ちがよかったのね、私とどちらがよかったかしら」
 シンジは真っ赤になった。思わず上半身を起こしてレイに向き直った。首が紅潮してき
た。さらに肩まで赤くなった。
 「綾波、ぼっぼくはまじめな話をしてるんだ」
 「声がうわずっているわ、碇君隠していることを言い当てられたときいつもそうなるの
自分で気がついていて」
 シンジは口を開いて何か言おうとしたがことばにならなかった。シンジは天井を見あげ
て深呼吸した。
 「ごめん、それは認めるよ。でも、聞いてくれ綾波、ぼくはそれとは別に綾波に言わな
きゃいけない重要なことがあるんだ、あの時にあったことで」
 「碇君、まぜっかえしてごめんなさい」レイは視線だけうつむいた。そしてあらためて
シンジを見上げ、「なにその重要なことって」
 シンジはことばを切った。そして正面のなにもない壁を見つめ、その時の情景を思い出
している表情になった。そして左手にこぶしを作り、その指を口に押しあてた。
 「あの時、戦闘中に、気持ちを集中して、二号機を思いどおりに動かそうとしていたと
き、ぼくは自分の考えだと思っていたんだけど、後から考えなおしてみると、あきらかに
そうじゃない、他人の考えが混じっていたことに気がついたんだ」
 「混じっていたの、どんなこと、戦闘とは関係ないことだったの」
 シンジは首を振った。「使徒を倒すために二号機をどうやって制御するかという内容だけ
だった」そしてつばを飲みこみ「だから他人のものだってわからなかったんだ、ぼくもそ
のことしか考えてなかった」
 レイは首をかしげた。「碇君はどうして他人の思考が混じっているとわかったの」
 「綾波と記憶を分け合っているから」
 「それ、どういう意味」
 「自分の中に他人の思考があることはどういう感じなのかを知っているってことさ。後
からあのときの状況を思い出すと、まちがいなくぼくのものじゃない思考が混じっていた。
その記憶は今でも忘れていない。気づいたとき、すぐに忘れてはいけないと何度もくりか
えし記憶しなおしておいた」
 レイは言った。「ちょうだい」
 「わかった」
 ふたりは心の触手を伸ばし、互いにふれあった。
 レイは、この心のふれあいがいつでもどこでも、誰にも気づかれずにできるのがうれし
かった。今は誰はばかることもない。シンジの感触にレイは微笑んだ。
 「綾波」シンジの思考が直接レイの心に響いた。「どうぞ」シンジは心を開いた。
 レイの心の中にシンジの記憶が流れ込んできた。シンジは全部くれるつもりなのだとレ
イは思った。レイは自分の記憶もシンジに渡した。
 「あ、綾波もくれるの、ありがとう」シンジの少しとまどった感情の流れがついてきた。
 「碇君、もう、いらないの。だったら次からあげない」
 「い、いや、ほしい…ほしいよ綾波」
 「そ」レイはそれ以上詮索しなかった。今はもらった記憶の分析をしなくてはいけない。
レイは後ろ髪を引かれる思いでシンジと心の接触を閉じた。
 レイはすぐに結論した。「セカンドね」
 「それ以外考えられない。あのとき、ふたりは同じ目的で同じ行動を取っていた」
 「心が通いあったというの」
 シンジはあいまいに首を振った。「わからない。多分、ぼくの心は届いていないと思う」
 「じゃあ、セカンドの心だけが碇君に届いたというの」
 「それもちがう、と思う。むしろ、ぼくがアスカの心を覗いたんじゃないかなって」
 レイは考えこんだ。「そうね、セカンドの心は私達のような経験をしていないはずだから。
確かに、セカンドの心が碇君に届いたのではなく碇君の心がセカンドを覗いたというのが、
よりありそうなことだわ」
 「でも、それだけでもない気がするんだ」シンジはあいかわらず指を噛んでいて発音が
不明瞭だった。「なんていうか、ぼくは確かにアスカの心を自分から覗いたんだ、それは間
違いないと思う。だけど、覗いてみえたのはアスカの心の中の全部じゃなかった。綾波と
はじめて心が通ったとき、僕たちは二人の記憶を全部交換したよね」
 「ええ」
 「あの時の感じとはまた全然違うんだ。だから覗いた、っていう言い方をしたんだけど」
 レイはもう一度もらった記憶を吟味した。「わかる。碇君からセカンドへの一方通行だっ
たという意味かしら」
 シンジは首を振った。「それだけじゃない、それだけじゃないんだ、なんていうか」
 「じゃどう違うの」
 シンジはうつむいた。「もっと硬くて冷たくてかすんでいて…にがくて…わからない…わ
からないからこんなに不安なんだ」
 レイは少し考えこんだ。「碇君はセカンドの心を覗いた、そして、見えたのはセカンドの
心の一部で、わたし達のときのような全面的な記憶の交換ではなかった。ここまではいい
わ」
 シンジはうなずいた。
 「碇君が見たセカンドの記憶の一部の印象が、私達の記憶の交換とちがっていた理由は
なに」
 「まず、一方通行だったこと、それから」
 「セカンドが碇君に知ってもらいたいことだったから碇君はセカンドの心が見えたのか
しら」
 「そう、かもしれない、けど、確信はないよ、綾波。あの時アスカに、アスカが何を考
えているのかぼくに知ってもらいたいと思うだけの気持ちのゆとりがあったとは思えない
もの」
 レイはうなずいた。「ええ、碇君の言うとおり。セカンドは碇君のことを意識していなかっ
た。意識していたことは」
 「そうか」
 「使徒を倒すこと」
 「あの時アスカの心の中で一番重要で気になっていることが心の奥底から染み出してき
て、ぼくにはそれが見えたんだ。ぼくはアスカの心の中を覗いたんじゃない、そうじゃな
くて、アスカの心の表面に浮かび上がってきた思念を見たんだ。見たのは心の表面だった
んだ」
 レイは黙った。そしてだまってうなずいた。「とてもささくれだっているわ。高揚した戦
意と、それに隠された暗く、重く、孤独の不安な悲しみで」
 シンジは首を振った。「綾波、たったそれだけの記憶からそんなにたくさんのことがわか
るの」
 レイはうなずいた。「私と同じだから」
 シンジはうなだれた。
 シンジはレイの記憶を共有しており、だからそのことばに嘘のないことが痛いほど分か
るのだとレイは思った。分かりえる立場にありながら気付いていなかったことへの後悔と
恥ずかしさだ。
 「碇君」レイはシンジの手を握りしめた。
 「綾波、ごめん、僕は知っていたのに気がついていなかった」
 「わたしも同じ」レイは半身になり反対側の手を伸ばしてシンジの質問をさえぎった。
「あのカーテン、心のうるおいになる理由。わたしの中の碇君に教えてもらえるはずなの
に。思い至らなかったわ、これからは気をつけるから。ごめんなさい」
 シンジはうつむいたまま首を振った。そして、しばしの沈黙の後、「おたがいさま、って
ことだね」やっと笑顔にもどった。
 レイは顔を下ろして軽く目を閉じ、シンジの唇を求めた。
 シンジの両手がレイの首に回った。
 レイはその両手にみちびかれるままにシンジと唇をあわせた。短い息がもれて舌がから
まった。
 シンジの暖かい舌がレイの全身を刺激した。先程交わした愛の余韻が揺り返して、から
だの芯に息をひそめていたぬくもりを呼び起こした。レイは耐えきれずにシンジの上半身
にみずからを任せて両手でシンジの頭を抱いた。シンジの髪が指の間を刺激した。そのこ
そばゆい感覚が全身の皮膚の表面をしびれるように伝わってうぶ毛が逆立ち、レイはます
ます興奮した。そして、口を開いて舌をシンジの口中に深く差し入れ、シンジの唾液だけ
でなくそのすべてを吸いつくし飲みつくそうとした。じんとしびれる感覚が全身をつつみ、
その中をするどい快感の波が尽きることなくわき上がってきた。レイはぶるぶると全身を
ふるわせながらシンジの上で自分の顔を狂おしく振った。髪の毛がシンジの頬に当たる音
がした。
 シンジの両手は背中からレイを抱き、両方の指を広げてシーツの間をゆっくりと動きな
がらレイの背中や腰や尻の汗の浮いた皮膚をなでた。そのやわらかい刺激は指が移動した
あともそこから熱い感覚を残した。最初はくすぐったかった感触が今はにぶい快感に変っ
ていた。その泉源がシンジの指の移動とともに後から後から増えていき、しまいに快感の
発生源は自己増殖しているような錯覚まで生じてきた。
 レイは身もだえしながら両手の指をシンジの髪の中でうごめかせた。汗に濡れてからみ
つく髪の毛がレイの指を一本ずつからめ取っていった。指と指の間に髪の房がはいりこみ
つけ根を強く刺激した。レイは目を強く閉じた。そしてうごめきまわるシンジの指に腰を
振ってこたえた。
 レイはシンジの身体の上に自らの腰をいざるようにして乗っていった。腰の外側の、太
もものつけ根の辺りに何かが当たり、レイはその動きをいったん停めた。
 レイは片手をシンジの頭から離し、そろそろと自分の身体に沿ってすべらせ、自分の指
でも同じように興奮する軌跡を残しながらシンジの一部を探り当てた。
 シンジは軽く目を閉じ、逃げるように腰を動かした。
 レイはシンジの股間に片ひざを落とし、シンジを制した。
 そして、汗でぬれた手でシンジを軽くつかみ、硬度と寸法を吟味した。レイの手のひら
の湿気は最初は汗によるものだったがすぐにシンジの体液でもっと粘度が増し、すべりが
よくなった。レイがそのぬめる指先でシンジを愛撫するとシンジはレイが両足で押さえ込
んでいる腰や足をもがいて逃げようとした。レイは逃がすまいと力を入れ、シンジはそれ
に応えていっそう興奮の度を高めた。
 シンジの指が対抗するようにレイの尻の間から秘部に伸びてきた。
 同時に内股の両側を刺激され、レイは思わずシンジから唇を離して大きく息をついた。
 シンジの片手がレイの背中にそって昇ってくると、レイの後頭部を抱いて唇を引き寄せ
た。
 レイは応えてシンジのまぶたに唇を当てるとそのまま頬を下がって唇を合わせた。
 シンジの反対側の手はレイの下半身を刺激しつづけていた。
 レイはシンジの指の動きに反応して肩をふるわせ、シンジの頭を抱く指に力を入れ、シ
ンジ自身に指をからませた。レイの手にはシンジの体温が伝わってきた。熱くて、脈打っ
ているようだった。そして、レイの指のぬめりとシンジの表皮がすべり合ってレイの腕の
内側をしびれる波動が伝わった。レイはシンジのももを両足できつく挟み、シンジの指の
攻撃に負けて鼻から息を抜きながら足を開いた。開いた足のつけ根からうずく感覚が腰を
包んだ。
 シンジが催促するように腰を軽く突きあげた。
 レイはのろのろと体勢を変えて足を大きく広げた。敏感な部分がシンジの腹にこすれて
レイの頭の中で火花が散った。レイは目を閉じていたがまぶたの裏側は赤く明るく輝いて
いて、あちこちで大きさもまちまちな星が消えたり現れたりまたたいたりしていた。
 シンジの吐息があらくなり、レイのからだの下で小刻みに動いてレイを捜しているのが
分かった。
 それからレイの内部にシンジがはいってくるのが快感の大波といっしょに伝わってきた。
レイはさらに強く目を閉じてその衝撃を受けとめた。そして唇を合わせたシンジの口内に
に深く舌を差し入れてシンジの舌とからませ、体液を全部飲み込んでしまおうとするよう
に激しく吸った。
 シンジは首をふってレイの口を逃れた。
 ふたりは同時に大きく息をついた。
 レイは自ら腰を動かしてシンジをもっと深く受け入れた。レイの内部が押し開かれて新
しい快感の泉になった。レイはあえいで腰を振り、シンジから逃れようとした。
 シンジの両手がレイの腰を捕らえて引きつけ、シンジ自身をレイに深く打ち込んできた。
 レイはたまらず声を漏らした。「い、碇君、いい」
 シンジの右手が腰からそろそろとわき腹を伝ってレイの胸をさぐりあて、下から抱える
ように包み込んで乳頭を軽くはさんだ。左手は腰から尻を経てレイの内股に取りつき、結
合部のあたりに刺激を加えた。
 快感の源が全身に広がり、レイは歯を食いしばって頭を振った。汗が飛び散り、髪の毛
が頬を叩いた。その痛みさえ今は快感となってレイの全身をふるわせた。レイは両方の胸
をシンジの右手ごとシンジの胸に強く押しつけてこね回した。両方の乳頭から電撃が走っ
てレイの脳髄をつらぬいた。さらにシンジの左手の動きに合わせて腰を上下に振ると、そ
のたびにしびれた全身の皮膚や肉や骨のすべてがびりびりと音を立てているような気分が
して頭の中が真っ白になり、何も考えることができないままにレイは腰を動かしつづけた。
果てしなく続く快感の波がレイの全身を包んだ。吹き出す汗としたたる体液が混じり合っ
て結合部を滑らかにしていった。レイは両足を突っ張った。開いた足の指先まで快感の痺
れでおおわれた。その感覚の中で自分のからだが内側から爆発するのではないかという錯
覚とのしかかっているシンジのからだの中に溶けていってしまうのではないかという期待
とふたりのからだが寝台を離れて浮き上がり空を飛べるのではないかという妄想とめまい
と混乱とが一度にまざりあった。
 「綾波」シンジが詰めた声でささやいた。「も、もう」
 「碇君、来て」レイは絞りだすように応えた。「あたし…も」
 ふたりはかたく抱き合って絶頂に登りつめた。
 レイの内部が満たされてからだ全体にしみ込んでいくような気分がした。シンジを全身
に感じていて、レイは幸福だった。常に感じている死の恐怖がこのひとときだけは忘れら
れる気がした。「碇君」
 「なに」
 「ずっとこのままいられたらいいのに」
 「そうだね…そうなったら、本当にいいね」
 ふたりはその思いが現実であるかのように冷たくなった膚を重ねたまま動かなかった。
		

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